彼と出逢ったときは、ほとんど しゃべらない人でした。
30分のカウンセリングで、じゃあ、今日はどこまで
話さないか 私も黙ってみよー!と 1人 心の中で
つぶやき試したら 20分くらい 2人で黙っていました。
静寂なその時間は、案外 心地悪いものでもなかったけれど
2回目、3回目、5回目・・・と 時間を重ねていくうちに、彼は、ひとつの
引き出しを開け、私に語り、そして、また 次の引き出しを開け
私に見せてくれ・・・
今では、抱えきれないほどの 彼の世界観を見せてくれます。
その世界観に触れたくて、私も時々 彼から本を借り、DVDを借り、一緒に
共感したり、語り合ったり、質問したりと 楽しんでいます。
そんな彼が あるとき
一冊の詩集を出し、見せてくれました。
谷川 俊太郎の詩集です。
その詩集には 水色の付箋が貼ってありました。
これは? と聞くや否や
彼は、詩集を手に取り
いきなり 朗読を始めました。
「生きる」
生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみをすること
あなたと手をつなぐこと
生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと
生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ
生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまが過ぎてゆくこと
生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ
実は、その日 私は、ちょっと元気がなかったのです。
そういう気持ちを隠しながらの私に
話すのが苦手だった彼が いきなり 朗読を始め
そして そんな彼が読んでくれた その詩が 心に
すーっと入り染み込んでいきました。
彼は、全部を 読み終えた後
ひとこと こう言いました
声に出して読むっていい な
彼も 生きるということを いま 感じているのでしょう。
そして 僕も 生きることの大切さや難しさを 感じています。
寄りそう心
私が一番大切にしていることです。
コメントをお書きください